令和の相場に向けて、平成を振り返る
いよいよ「平成」から「令和」へと年号が変わります。
時代の大きな節目を迎えるなか、東京株式市場も新たなステージに歩を進めようとしています。
世界景気減速に対する懸念から2019年の相場は波乱も予想されましが、年初から日経平均はジリジリと下値を切り上げる展開をみせています。
強靱な米国株市場が世界のマーケットを牽引していますが、日本株もまたこの流れに乗って株高の恩恵を享受しています。平成の30年間を振り返れば山あり谷あり、バブルの絶頂に始まり、その後、総量規制を契機にデフレスパイラルに突入、ようやく上昇気流に乗ったと思った矢先にリーマン・ショックに見舞われるというドラマ仕立ての道程を歩んできました。
今回、この30年間を振り返り、東京株式市場はどういう軌跡を歩んできたのかを改めて解説いたします。
平成の出来事と日経平均の推移
平成の株式相場回顧(1)平成元年~10年(1989~1998年)
平成元年末に歴史的過去最高値の3万8915円に駆け上がる
1989年(平成元年)は、年明けまもなく昭和天皇が崩御し、元号が1月8日に「昭和」から「平成」改められました。
その直後は、多くのテレビCMの放映が見合わせとなるなど“自粛ムード”に支配され、消費も手控えられました。
そのなか、竹下政権は4月1日から消費税3%の導入に踏み切ったものの、竹下首相がリクルート社から資金提供を受けていたことが明らかとなり、4月25日には辞任表明に追い込まれました。
この年は、自粛ムードもあってか1~3月の日経平均は3万~3万1000円台で推移しています。
それが4月新年度入り前後から一気に上昇基調に転じ、毎月1000円大台を改める急ピッチぶりで、秋口からはさらに勢いを増し、大納会には歴史的過去最高値の3万8915円まで駆け上りました。
1988年9月からスタートした日経平均先物を外国人投資家が買い進んだことや、これと関連したインデックスファンドの人気化が株価急騰を加速させたとの見方があります。
「総量規制」と「金融引き締め」が“裁定解消売り”誘発
1990年(平成2年)は、年初から株価が下落した。2月の衆院選で自民党は絶対安定多数を確保したものの、直後に日経平均は数日間で3000円近く下落しました。
4月2日には日経平均が1日で1978円暴落して終値は2万8002円と、約3カ月間で1万円を超える暴落となりました。株価急落の背景には、当時の異常な投機熱を冷やし、土地取引に流れる融資の伸びを抑えるため、大蔵省が金融機関に対して3月27日に通達した行政指導の「総量規制」がありました。
ただ、不動産向け融資は、住宅金融専門会社(住専)を対象とせず、また、農協系金融機関も対象外としたため農協系から住専、そして不動産投資へと資金が流れ続け、これが後の住専の不良債権問題悪化へとつながりました。
さらに、当時“平成の鬼平”称された三重野康日銀総裁が、矢継ぎ早に金融引締め政策を実施したこともバブル経済崩壊の一因となったとの見方もあります。
実際には、こうした政策転換を背景に、外国証券主導による指数先物と現物株の“裁定解消売り”に翻弄された印象があります。
金融システム不安が増幅し山一証券、長銀、日債銀が破綻
実際にバブル経済崩壊とその打撃の深刻さから多くの投資家に明確な形で認識されたのは1991年(平成3年)から1992年(平成4年)に掛けてのことでした。
1991年の日経平均は2万4000円台でスタートしたあと、弱含みながら行きつ戻りつで推移し、2万3000円台で年越ししました。
しかし、1992年になると、3月に2万円の大台を割り込んで1989年末最高値のほぼ半値水準まで下落した。更に、8月には1万4000円台まで突っ込むことになります。
マクロ経済的には1993年(平成5年)秋にいったん景気回復過程に入ったかに見えたものの、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件が発生し、円相場が一時1ドル=79円台の高値を付けた1995年(平成7年)、山一証券や北海道拓殖銀行など大手金融機関の破綻が相次ぎ、消費税率が5%に引き上げられた1997年(平成9年)とも日経平均の安値は1万4000円台で推移していました。
しかし、消費税率や社会保険料の引き上げなど性急な財政再建政策で弱々しかった景気回復は腰砕けに終わり、貸し渋りと金融システム不安がピークに達し、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が破綻した1998年(平成10年)10月に、日経平均は当時のバブル崩壊後の最安値を更新し、1万2787円まで下落しました。
平成の株式相場回顧(2)平成11~20年(1999~2008年)
ITバブルによる狂乱相場が発生、2000年春をピークに崩壊
1990年代後半の日本経済は、金融機関の破綻が相次ぎ「金融恐慌」という言葉も飛び交う、悲壮感漂う状況に陥った。しかし、日経平均株価は1998年(平成10年)10月の1万2787円安値を底に反騰局面に突入します。
特に、90年代末には米国発のインターネット株人気が日本にも上陸。株式市場は一転活気づき、2000年(平成11年)にかけては「ITバブル」と呼ばれる熱狂相場が発生しました。例えば、ソフトバンクグループ<9984.T>の株価は1998年年初の安値から2000年春の高値まで一時、数十倍に急騰しました。IT関連株が狂乱状態となるなか、ベンチャー企業が株式上場できる環境が整えられていきました。1999年12月には新市場の「東証マザーズ」が誕生します。また、2000年6月に「ナスダックジャパン」が発足しました。
しかし、IT関連株の人気は2000年4月にピークを打ち、バブルは崩壊していきます。この時、光通信<9435.T>は同年3月末から伝説の20日連続ストップ安を記録しています。
再び金融不安に突入、りそな銀国有化で不良債権問題に終止符
日経平均株価は2000年4月に2万833円で天井を打ちましたが、同月に実施された日経平均30銘柄入れ替えも株価急落に拍車をかける格好となりました。
その後、東京株式市場は一本調子の下落となり、再び、底値を探る展開となります。
2001年(平成12年)9月には米国で同時多発テロが発生し、日経平均株価は1万円を割り込みました。そして株価の下落とともに、大手銀行の保有株含み損への懸念が強まり、市場には再び、金融不安が高まります。政府による大手銀行の不良債権処理対策も迷走を続け、日経平均株価は2003年(平成14年)4月に7607円まで売り込まれていきました。
しかし、同年の5月に政府は大手銀行のりそなグループに2兆円規模の公的資金を注入し、国が大株主となることで実施的に国有化することを発表しました。この「りそな国有化」は、日本の不良債権問題の歴史的な転換点となり、バブル崩壊後、日本を苦しめ続けてきた銀行不良債権問題は終止符を打ち、その後、株価も反騰基調を強めることになります。
07年に1万8000円台まで上昇後、リーマン・ショックで再暴落へ
りそな銀行の国有化を契機に、日経平均株価は2003年7月に1万円を回復します。04年(平成15年)4月には1万2000円を奪回しました。2005年(平成16年)、2006年(平成17年)も一段の上昇を続けましたが、この間、米国では住宅市場が活況を呈し、好景気に沸いていました。
また中国景気も拡大基調を強めていました。そんななか、2006年1月にはライブドアが証券取引法違反の疑いで家宅捜査されたことが嫌気され中小型株が急落する「ライブドアショック」が発生しました。
もっとも、このライブドア事件後も日経平均株価は上昇を続け、2007年(平成18年)7月の1万8261円まで上昇しました。
しかし、この頃には米国では信用力の低い個人や低所得者に向けて高金利住宅ローンを貸し付けるサブプライムローン問題が表面化しました。
大手保険会社のAIGや証券会社のベアスターズが経営破綻するなど、先行きに暗雲が垂れ込めていました。このなか、日経平均株価は下落基調を強めました。
そして、2008年(平成18年)9月にはついに米国の大手証券リーマン・ブラザーズが破綻します。「リーマン・ショック」が発生し、世界の株価がつるべ落としの下落を演じるなか、日経平均株価は同年10月に6994円とバブル崩壊後の最安値に売り込まれることになります。
平成の株式相場回顧(3)平成21~31年(2009~2019年)
平成21年に7000円まで暴落、その後も1万円上限の往来相場に
2009年(平成21年)は春先までリーマン・ショック後の負の連鎖に苛(さいな)まれ、日経平均は3月10日に終値ベースで7054円まで売り込まれました。
まさに総悲観売りの渦中にありましたが、3月下旬以降は急速なリバウンド局面に入り、同年の8月には1万円トビ台まで水準を戻しました。
業種を問わず全面的な底上げの様相を呈したわけですが、そこからの戻り相場は決して順調なものではありませんでした。
この年、米国ではクライスラーやGMが連邦破産法適用を申請するなど、世界はデフレ相場の極致にありました。
2010年(平成22年)4月5日に日経平均は1万1339円の戻り高値をつけたものの、再び下値模索の展開に陥りました。2009年から12年(平成24年)の4年間は、上値はほぼ1万円トビ台、下値は8000円近辺のボックス圏往来相場を強いられることになります。
民主党政権から自民党安倍政権に移行し流れが大きく変わる
2009年の衆院選で民主党が第1党となりましたが、株式市場との相性は良くありませんでした。
これは10年に鳩山内閣から菅内閣に代わっても状況は変わらず、むしろ投資マインドは再び陰の極に向かいます。
2011年(平成23年)に菅首相が退陣を表明し野田内閣が発足しても全体相場の体感温度低下は止まりませんでした。
日経平均は東日本大震災の影響もあり、同年の11月25日に8160円、それから半年余り経過した2012年(平成24年)の6月4日に8295円まで下落し、暗闇の中で2点底を形成することとなります。ところが、この2012年という年は相場の潮流が大変化する入り口となった年でもありました。
2012年12月に自民党が衆院選で勝利し、安倍政権が誕生すると、株式市場の景色はガラリと変わります。
アベノミクスの号砲とともに為替市場で円安が進行し、これに連動するように日経平均も底値圏から一気に舞い上がる展開となりました。
2012年の年末をターニングポイントに長期上昇波入り
2012年の年末からスタートしたアベノミクス相場は鮮烈でした。2013年(平成25年)1月に、発足間もない安倍政権は日本経済再生に向けた緊急経済対策を決定します。
ここを起点として海外投資家の強力な日本株買いを背景に、リーマン・ショックに見舞われた2008年(平成20年)後半の暴落トレンドを帳消しにする“過激なる戻り相場”を演じました。
この株高の背景には看板に掲げる「成長戦略」はもとより、外国為替市場での急速なドル高・円安の進行が大きな役割を担っていました。ドル・円相場は2012年10月の時点で1ドル=80円を割り込みました。
ところが、そこから長期にわたりドル買いの動きが加速、途中踊り場を形成する場面はあったものの、2015年(平成27年)年央まで怒涛の勢いで円安が進み、同年5~6月には1ドル=120円台半ばと大きく居どころを変えます。
輸出依存型の日本経済には恵みの雨となったことはいうまでもなく、株式市場も悲観の淵から見事な生還を果たしました。ちなみに、日経平均は2015年6月24日に2万868円の高値をつけました。
アベノミクス相場の賞味期限は意外に長かった!?
ただし、この2万868円の高値をつけた後、日経平均は再び調整局面に入ります。
2015年後半から2016年(平成28年)にかけてはアベノミクス相場の終焉が意識された時です。
事実、2016年の2月と6月に日経平均は1万5000円台を割り込み1万4900円台で2点底を形成しました。
同年11月の大統領選ではドナルド・トランプ氏が勝利します。
メディアはトランプ大統領誕生なら株価は暴落の憂き目にあうと喧伝していましたが、NYダウはそこから上昇トレンドを加速し、2019年(平成31年)4月には2万6424ドルの最高値をつけています。
日経平均もこの米国相場に牽引される形で立ち直り、2018年(平成30年)10月には2万4270円のバブル期の1991年(平成3年)以来の27年ぶりの高値圏に浮上しました。
この間に安倍首相は3選を果たし、気が付けば2012年の年末以降の6年半にわたり安倍政権が日本の舵を握っています。
当初のアベノミクス相場というワード自体、今や霧消した感なきにしもあらずですが、リーマン・ショック後の日本株復活の軌跡は安倍政権とともに描かれた、ということは歴史に刻まれた事実です。
新元号「令和」の相場に向けて
平成の株式相場回顧録はいかがでしたでしょうか。
株式市場は資本主義経済を映す「鏡」に例えられるように、景気を先見する指標としても重要な役割を担い、世界の政治情勢なども如実に影響します。しかし一方で、「相場は生き物」ともいわれ、投資家として相場に至近距離で対峙すれば、おそらくそれは人間心理が錯綜するジャングルのようなイメージに近いと思われます。そこには様々なアングルから経済を学び・知る要素がたくさん詰まっています。実践的なアプローチで経済を肌で感じるには株式投資が最適であるゆえんです。
さて、この10連休を境に時代のステージは「平成」から「令和」へと変わります。令和相場ではどういった風景が映されるのか、興味は尽きません。今秋には消費税率の引き上げが待ち構え、国内企業の今期業績も総じて芳しいものではなさそうです。しかし、株式市場は常にファンダメンタルズ(経済の実勢)に先行します。“経済の鏡”には違いありませんが、もっと突っ込んだ言い方をすれば“経済の未来を映す鏡”なのです。外部環境が悪い時に安値を拾うのが株式投資の極意です。来年には東京五輪・パラリンピックというビッグイベントを控え、今年は株を買うチャンスとなるかもしれません。「景気が悪そうだから株はだめだ」ではないのです。
株式市場では投資テーマというものが常に存在します。例えば、今の株式市場を賑わしているテーマとしては、人工知能(AI)、5G、自動運転、バイオテクノロジー、半導体、サイバーセキュリティーなど、より取りみどりですが、これらは色褪せることなく今年から来年にかけても投資マネーが流れ込む有力な受け皿となっていくはずです。「みんかぶ」や「株探」サイトでは有望な銘柄が数多く紹介されています。ぜひ、この機会に投資の花を咲かせてみてはいかがでしょうか。